第3話「吸い込まれる手紙」
「プリンターの動きが逆になって、紙が吸い込まれていくんです」
そんなメッセージを受けたのは、未知さん宅からの帰り道だった。
翌朝、マー先生は依頼先へと向かう。
出迎えてくれたのは、穏やかな笑顔の木村さん(80代・元小学校の先生)。
机の上には古いインクジェットプリンターと、レトロな便箋の束が置かれていた。
「趣味で手紙を書いてましてね。印刷すると、こんなふうに…」
木村さんがスイッチを入れると、便箋は印刷口から逆走し、ゴゴゴ…と奥へ奥へと吸い込まれていく。
「まるで食べちゃうみたいですね」
マー先生は冗談めかして笑うが、木村さんは真剣そのもの。
「中に詰まっているんじゃないでしょうか?」
カバーを開けても、見える範囲には何もない。
「分解してみますね」
マー先生が慎重にネジを外すと、ローラーの奥に、くしゃくしゃになった紙の束が引っかかっていた。
それをそっと引き出すと、便箋にびっしり書かれた文字が現れる。
「これは…?」
「…孫が小学生のころにくれた手紙です。失くしたと思ってたんですが…」
木村さんは一枚一枚を丁寧に伸ばし、思わず目を細めた。
「いやあ、こんなところから出てくるとは…」
さらにプリンターの奥からは、小さな袋が出てきた。中にはお守り。
「これも孫が修学旅行で買ってきてくれたんです」
木村さんは小さく笑ったが、その目は少し潤んでいた。
プリンター内部を掃除し、ローラーの動きを確認する。
便箋も正常に印刷されるようになった。
「これで手紙も吸い込まれずに済みますよ」
マー先生がそう言うと、木村さんは深くうなずいた。
「先生、機械を直してくれただけじゃなくて、私の大事な記憶まで引っ張り出してくれましたな」
「プリンターは紙を吐き出すものですが…たまには思い出も出してくれるんですね」
二人はコーヒーを飲みながら、孫の成長や昔の手紙の話に花を咲かせた。
帰り道、スマホが震えた。
画面には新しいメッセージ。
「パソコンを開くと勝手に音楽が流れ始めるんです。助けていただけますか?」
マー先生の珍事件録は、まだまだ続く——。