第5話「止まらない猫アルバム」

第5話「止まらない猫アルバム」

 午後の日差しがやわらかく差し込む住宅街。マー先生は猫のイラストが描かれた表札の家の前に立っていた。今日の依頼主は「大の猫好き家族」だと聞いていたが、玄関先に並んだ猫の置物の数々を見て、なるほどと頷く。呼び鈴を押すと、中から元気な声が響いた。

「どうぞお入りください! すぐにお見せしたいんです!」

 出迎えたのは主婦の佐伯さん。後ろからは中学生くらいの娘さんが顔をのぞかせ、両手には抱きかかえられた本物の猫。マー先生は思わず笑みを浮かべた。

「本当に猫がお好きなんですね。」

「ええ、もう家族同然です。でも……困ったことになって。」

 リビングに案内されると、大きなノートパソコンがテーブルに置かれていた。画面いっぱいに猫の写真が次々と切り替わっていく。どれも愛らしい表情や仕草だが、延々と続いて止まる気配がない。娘さんがため息をついた。

「これ、ずっと止まらないんです。パソコンで宿題をしたいのに、猫だらけで……。」

 確かにマウスを動かしても、キーボードを押しても反応がない。BGMのようにクラシック音楽まで流れ続けている。佐伯さんは苦笑した。

「最初はかわいいからいいかなって思ったんですけど、プレゼン資料も開けなくて。」

「なるほど、さて……」

 マー先生はカバンから道具を取り出し、画面を注意深く見つめた。スクリーンセーバーやスライドショー機能の暴走かと思われたが、設定画面にもアクセスできない。タスクマネージャーを呼び出そうとしても、猫の写真が優先されて操作できないのだ。

 そこで先生は、セーフモードでの起動を試みた。すると、猫の写真は表示されなくなり、デスクトップが現れる。娘さんが歓声を上げる。

「やった! 止まった!」

 しかし、安心するのはまだ早い。調べていくと、原因は「写真整理アプリ」が勝手に常駐して、撮りためた数千枚の画像をスライドショーにしてしまっていたことが分かった。しかも設定で「自動起動」「フルスクリーン表示」が有効になっていたため、通常の操作がブロックされていたのだ。

「これじゃ、猫がパソコンを占拠してますね。」

 先生がそう言うと、佐伯さんは頭を下げた。

「うち、家族みんなで猫の写真を撮っていて……気づいたらフォルダがいっぱいに。アプリを便利だと思って入れたんですけど、こんなことになるなんて。」

「便利さも、度が過ぎると困りものです。設定を直しましょう。」

 マー先生は自動起動を解除し、スライドショーの設定をオフにした。そして、写真を整理するためのフォルダ分けやバックアップ方法もアドバイス。クラウドに保存しておけば、家族それぞれがスマホからでも見られると提案した。

 

「これなら好きなときに猫アルバムを楽しめますし、パソコンの作業もスムーズになりますよ。」

 娘さんは目を輝かせた。

「スマホでも見られるの? すごい! じゃあ宿題もちゃんとできる!」

 リビングは一気に和やかな空気に包まれた。猫も満足そうに丸くなり、マー先生は心の中で「また一件落着」とつぶやいた。

 帰り道、マー先生のスマホが震えた。画面には新しいメッセージが浮かび上がる。
「昨日書いたはずの原稿が、パソコンを開いたら真っ白なんです。保存したのに消えたなんて……どうしたらいいんでしょう?」

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